コインもカードも平らに収める薄財布
sugata(スガタ)の財布はシンプルな見た目ですが、実は硬貨とカードの収納部分を、互いに重なることにないように配置させているのが特徴です。中に収納するものの重なりを無くすことで薄さを実現した、技ありの一品です。
台東デザイナーズビレッジから生まれた革製品ブランドsugata(スガタ)。2020年にはsugata「二つ折り財布|収める納まる」がグッドデザイン賞を受賞されました。ブランドのデザイナーを務めるのは染谷商店の染谷さん。この4年間、ずっとこだわってきた商品デザインへの思いを語っていただきました。
ーもともと染谷さんは義肢装具士として働かれていたとお聞きしました。とても珍しい経歴かと思いますが、革製品のデザイナーになった理由について教えていただけますか。
染谷さん:医療業界から革小物業界というと珍しいと驚かれることがよくあります。しかし、業界は異なりますが、やることは大きく変わらないと私は思っています。異なることは、革小物であれば革と糸、針と包丁さえあれば手元ですぐに試作ができ、アイディアを形にすることができる点だと思います。
染谷さん:流行り廃りのない普遍的な何かを作ってみたいという気持ちが革製品のデザイナーになった理由です。環境や素材はもちろん、使う人にも作る人にも配慮した日々の生活に溶け込む革小物が作れたらなと思いました。
ー4年前から変わらず大事にされているものづくりへの思いが「全ての人・モノへの配慮」なのですね。
染谷さん:もともと、義肢装具士として働いていた時から形やデザインを通して作り手の意図や思いを考えたり、作る工程を想像したりすることに面白みを感じていました。そしてその際に気づいたことが、デザイナーの仕事は綺麗な形をした機能性のあるデザインを考えることだけにとどまらないということです。
染谷さん:ものをデザインする時、使う人のことを想像して形状や機能を考える人は多いと思います。一方で、ものを作る人とその製造工程や材料までを総合的に捉え、デザインを考える人は多くありません。しかし私は、デザイナーは作る人と使う人を繋ぐ役割を担っており、その関係性を作るためには双方の視点からデザインするべきだと思っています。ですので商品に関わる人全員が心地良いと感じるもの作りを大事にしています。
ー具体的に商品にどのような作り手への配慮がされているのか教えていただけますか。

染谷さん:素材の特性を活かしつつ、工程数を抑えたデザインを意識しています。
例えば一般的な二つ折り財布はおよそ20のパーツがつなぎ合わされてできていますが、sugataでは4パーツしか使用していません。これは無駄がでないように革を使いつつ、革が本来持つ柔軟性や耐久性を活かすためです。
染谷さん:革製品に限らず素材は人の手が入ったところ、すなわち接着部分や縫製部分から壊れます。また、革は摩擦に強い特徴を持ちます。長く使っていただくためには、できるだけ接着や縫製箇所が少ないデザイン、かつ擦れやすい部分には極力縫製を入れないデザインが理想です。これを実現させているのがsugataなのです。
ーシンプルかつ丈夫なデザインが作り手にとっても使い手にとっても嬉しいポイントになっているのですね。
染谷さん:工程数を抑えたデザインが実現したことにより、生産コストをを抑えることができ、その分より質の良い革の使用が可能になりました。sugataは作り手にとっては作りやすく、使い手にとっては使いやすくて長持ちする理想の財布になっています。
ーこだわりのデザインはどこから着想を得られたのでしょうか。
染谷さん:sugataの二つ折り財布のデザインはジグソーパズルから着想を得ました。4つのパーツがパズルのようにぴったりと組み合わさるように型紙を設計しています。ジグソーパズルや折り紙など、日常にあるものからいつもアイディアをもらっています。
ー新しいデザインのアイディアに困ったりすることはありますか。
染谷さん:常に困っています(笑)が、新しいアイディアというのは違和感から生まれることが多いと思っているので、いろんなことに違和感を持つことを大事にしています。例えば鉛筆は六角形、色鉛筆は円形のものが多いですが、それって何でなんだろう?とか。
私たちの世界では知らない間にルールができていることが多く、そのデザインがなぜかずっと変わっていないということがよくあるんです。いつのまにかできている形のルールなどがないかをよく探しています。
ー答えのない問いを探しているかのように感じますが…
染谷さん:理想の答えはあると思っています。世の中に生まれる新しいものは、基本的にはすでにあるものの組み合わせでできているからです。自分が思いつかなかったとしても、きっと誰かが思いついて、作っているのではないのでしょうか。誰かも、もしかしたら同じことを考えているのかなと思いながら形にしていく過程も私は楽しいと感じています。

ー染谷さんが楽しみながらデザインされているのがよく分かりました。最後に今後の目標などがあれば教えていただけますか。
染谷さん:キャッシュレスが推進され、これから財布業界もまた少し変わっていくのではないかなと思っています。その中でも引き続き、形・素材・機能そして作り方が調和するものを作ることを意識していきたいです。作り手にも使い手にも無理がないものをデザインすることができれば、長く愛され続けると信じています。
染谷さん:目の前のことにしっかりと向き合っていれば、自ずと未来に繋がっていくと考えているので明確な目標は持っていませんが、財布に限らず、いろんな物をこれから作ってみたいと思っています。ただ、アウトプットの形が財布以外のものになったとしても、もの作りへのスタンスは変わりません。使い心地だけではなく、作り心地にも配慮したものを作り続けたいです。
自分はデザインに専念して、商品を作るのは職人さんに、商品の魅力をお客様に伝えるのは皆さんにお任せする、と語っていた染谷さんですが、取材中はsugataへのこだわりと愛を余すことなく語ってくれました。使いやすいだけではなくて作りやすい財布。誰にとっても嬉しい財布を作り出す染谷さんらしさに触れることができるインタビューとなりました。
現在はsugataの制作以外にも文房具メーカーのデザインなど幅広く活躍されている染谷さん。次はどんな日常をヒントに新商品を発表されるのかが、とても楽しみです。

Profile染谷 昌宏ソメヤ マサヒロ
義肢装具士として、医療用装身具の製作に従事していた経歴を持つ。独立後、革小物を主とするブランド「sugata(すがた)」を展開。その他プロダクトデザインの提供も手がける。