ここ数年、ファッション誌で「リアルクローズ」という言葉をよく目にするようになった。その背景には、トレンドや個性的なデザインよりもサスティナブルなものを好む人が増えきた影響がある。シブヤ製靴の「ホワイトサンズ」は、アメカジ好き、ワークシューズ好きにとっての「リアルシューズ」を目指す国産の紳士靴ブランドだ。
まっとうな靴をまっとうな値段で作れるのが日本の企業
メーカーにとってオリジナルブランドとは、
いわば自社のシンボル、広告塔に等しい。
そのため持てる技術の粋を集めたものや
独創的なデザインの製品が必然的に多くなるが、
ホワイトサンズのラインアップは真逆を行く。
ウィングチップ、Uチップシューズ、
チャッカーシューズ、デザートブーツなど、
永遠の定番ともいえる紳士靴がカタログにならぶ。
「ホワイトサンズ」の最新作はプレーンなワークシューズ。アメリカの老舗タンナーの革を使いながら価格を抑えた。
「完成されたデザインを変えてもしょうがない。
シブヤ製靴はいろんな靴を作れるメーカーだけど、
ぼくはひねりをきかせた靴が好きじゃなくて・・・」
そう話す原田耕治さん(48歳)は、
商社の仕事を辞め、2005年にシブヤ製靴に入社した。
ホワイトサンズを立ち上げたのはその4年後。
以前から付き合いのあるアメ横の靴屋と
若者にも手の届きやすい価格帯で、
本格的なワークシューズを作ろうと
盛り上がったことがきっかけだった。
現場の若いスタッフと意見を交わす原田さん。仕上がりの微妙な違いも正確に反映できるのが国内生産のメリットだ。
原田さんは21歳から12年もの間、
百貨店の靴売り場に立っていたこともあって、
職場でもおしゃれを楽しむことを忘れていない。
好きなファッションはアメカジ。
ワークシューズはアメリカの定番ブランドを
10足以上持っているという。
「ファッション誌では10万円以上する靴が
当たり前のように紹介されているけど、
ぼくには正直『マジかよ』って感じ」
「ステータスとしての靴があってもいいけど、
まっとうな靴をまっとうな値段で流通させるのが
シブヤ製靴にいる自分の役目だと思っている」
ホワイトサンズのロゴマークが刻印された中敷き。履き心地を高めるため、内装にも極力、天然皮革を用いている。
靴を好きな人が好きなものを作れば、必ずいい靴ができる
原田さんはいまでこそ都内のメーカーで働くが、
前職の商社時代は東南アジアを飛び回り、
安価な靴を海外で生産する仕事をしていた。
「いってみればメイドインジャパン流出の
片棒を担いでいたわけだけど、
生活必需品全部が国産である必要はないと思う。
実際問題、ユニクロがなくなると困る人が
大勢いるわけでしょう」
そういう原田さんだが、
メイドインジャパンに思い入れがないわけではない。
「同じ価格設定の靴があれば、海外生産品よりも
日本製のほうが作りが丁寧なのは間違いない」と断言する。
ここ数年、製造部門で働く若者が増えてきた。企画部門にも若いスタッフがおり、若手職人と密接に連携している。
国内外で靴作りにかかわってきた彼にとって
東京の下町に小さな工場を構えるシブヤ製靴は、
どう目に映るのだろうか。
「当たり前のことを当たり前にやっているメーカー。
靴作りが性に合っている男たちが集まっているから、
おいそれと手を抜かないところがいかにも日本らしい」
そんな実直なもの作りに共感した若者が
シブヤ製靴に少しずつだが集まりつつある。
「大学を出て、それから専門学校に行って、
下町の靴工場で働きたいというんだから。
ぼくが親ならぶっとばすところですよ(笑)。
でも若いやつらの気持ちはよくわかる。
ぼくにも靴を偏愛している部分があるから」
後輩たちと飲みに行っても仕事の話は持ち出さない。
彼らが手がけるオリジナルブランドにも口出ししない。
えらそうなやつ、小難しいこと、格好つけたことが大嫌い――。
そんな原田さんに下町っ子の粋を感じた。
取材・文/菅村大全、撮影/横山新一 AD/柳悠介


