『ANNAK(アナック)』には、3つの「ない」がある。ひとつは都心に店を構えるつもりがないこと。ひとつは専属デザイナーがいないこと。もうひとつはシーズン展開をしないこと。あくまで自然体。そして、スロー。東京の東側で、ファクトリーブランドの理想形を追求する若き作り手をたずねた。
職人技を守りたい一心から弱冠29歳で社長に就任
ファッション雑貨ブランドの多くは、
商品を飾り立てることで、個性を主張しているものが多い。
『アナック』はそれとは正反対に、余計な要素を取り除き、
革という素材の質感を追求している。
こういうと、技術ではなくセンスで勝負している、
レザーブランドのように思われるもしれない。
実際、シンプルでナチュラルなテイストの革製品は、
いまマーケットの大きな潮流となっている。
しかし、『アナック』はそうしたブランドと一線を画する。
創業は大正14年。戦後はベルト専業メーカーとして、
有名ブランドの名を冠した高級ドレスベルトを製作してきた。
「オリジナルブランドをはじめたのは12年前です。
当初は、技術の粋を集めたブランドを目指していました。
でも、時期尚早で多くは売れませんでした。
そこで180度方向転換して生まれたのが、アナックです」
アナック(ANNAK)は造語で、
鉋(KANNNA)のスペルを逆さに並べたものだ。
鉋はベルトの仕上げに欠かせない道具であることから、
リニューアル後も、ブランドの隠れたシンボルにした。
麻生さんが入社した当時、
家業は大きな転換期を迎えていた。
中国をはじめとする海外生産が主流となり、
仕事の質より、コストが優先されるようになった」
「これじゃ、この先会社の発展はないと思いました。
『いいもの作っても、どうせ最後は値段でしょ』と
職人たちがぼやくのを聞いて、
自分たちで打って出るときに来ているんじゃないか、
そう考えるようになりました」
弱冠29歳で、3代目社長となったのは
そうした危機感からだという。
「会社を継ぐことになったとき、
新しい経営理念をどうするか、父に相談したんです。
そしたら、ひとこと『会社をつぶさないことだよ』って。
はっとさせられました」
2001年にブランドを立ち上げて、今年で12年目になる。
はじめることより続けることがいかに大変で大切か、
父の言葉の重みを、麻生さんはあらためて感じている。
「ありきたりの表現ですが、
『伝統と革新』がアナックの核にあります。
日本の高度な職人技と、新しい感性をどう融合させるか。
いまはまだ新しいことに挑戦する時期だと思っています」
ベルトメーカーの気概を感じる骨太なブランド
三竹産業の主力商品はベルトだが、
アナックでは、バッグや財布も展開している。
ベルトメーカーが生み出すレザーアイテムの魅力、
ベルトメーカーとしての気概はどこにあるのだろう。
「ベルト屋は、革の扱いに関して一番シビアです。
ベルトは厚さがあって傷の少ない革を使わないと
商品になりません。だから、革問屋には嫌われる(笑)。
素材をうまく生せるのがアナックの強みだといえます」
その象徴といえるのが、
洗いをかけヴィンテージ感を出したベルトだ。
ヌメ革の最高峰タンナーである栃木レザーに特注した革は、
水洗いしても硬くならないよう特殊な仕上げが施してある。
このように、タンナーと素材から開発し、
その加工方法も自社で考えるのが、アナックの流儀だ。
そんなこだわりぶりがネットの口コミで徐々に広がり、
毎月開催している「アナックマンスリーショップ」には、
革好きの若者たちが遠方からもやってくる。
「店を出さないかという誘いは多いのですが、
いまのところ、そのつもりはありません。
地場に根ざしているのがファクトリーブランドですから。
御徒町、蔵前の界隈(かいわい)が物作りの町であることを
買い物に来るついでに知ってもらえるとうれしいですね」